思春期を持て余せ!

『僕の心のヤバイやつ』のご紹介

まずこのコマを見てもらいたい

桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より 引用
勃起しそう。(桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より)

すごくない?

山田(ヒロイン)が自分の足元に隠れているシーンだが、ここで市川(主人公)は「なんでか知らんが勃起しそう」になるのである。

下ネタかよと思われるかもしれない。ああ、下ネタだ。しかし一方で、思春期というのは下ネタが結構冗談にならなかったりするのである。切っても切り離せない存在というか。

言語化できない感情であったり、むしろ感情とすら解釈できない生理現象を持て余すことが思春期だと思っている。

桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より 引用
興奮しているんだか嬉しいんだか気持ちいいんだかよく分からない。(桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より)

本作は紛れもなくラブコメだが、一方でメインのテーマはしっかりしている。こういう経験の不足ゆえに言語化できない生理現象に振り回されながら、山田と向き合おうとする市川がとてもかわいいのだ。

象徴的なのはこの「んん…んんんんんんん」というセリフ。完全に感情を持て余していらっしゃる。

おそらく嬉しいのだろうが、それがどうして嬉しいのかはもちろん分かっていないし、もしかしたら嬉しいということすら分かっていないかもしれない。なんかの物質がドバドバ分泌されている結果の悶絶であって、当人はそれがどういうことなのか理解するだけの余裕を持ち合わせていない。

これは「中学生」のカーストラブコメである

桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より 引用
中学生あるあるはクラスメイトからも醸される。(桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より)

冴えない主人公と学園のアイドル的のラブコメというのはよくある設定だ。本作においてもかなりの部分でテンプレは踏襲されている。

雑誌のモデルを務めるような、ひとつ飛び抜けて大人っぽい山田だが、とても食いしん坊だ。毎日図書室でお菓子を食べている。そのことが市川との接点になるのだが、このあたりは非常にテンプレである。

しかし一方で、上述のような感情未満の生理現象をうまく取り入れていることで親近感がとても強い。なにせすぐ勃起しそうになるのだ。

一方の山田だが、彼女も非常に中学生的に描かれている。

前述のとおり、雑誌のモデルとして働いているので、同級生と比べるとかなり大人っぽい。一方でおっちょこちょいで、お菓子が好きで、いたずら好きだったりする。つまり大人と子供の振り幅の広いキャラクターとして描かれている。しかし本質的にはやはり中学生なのだ。

桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より 引用
返答に困ってからの「おなか痛い」。(桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1巻より)

象徴的なのが山田と市川が体調不良で休んでいるシーンである。山田はどうも生理のようで、しかしそれを直接的に市川に伝えられるわけもなく、少し沈黙してから「おなか痛い」とだけ言っている。

それで市川がピンとくる可能性をどの程度考慮した結果の「………おなか痛い」なのだろう。生理のことを同級生男子に対してどの程度隠さなければならないのか。自分と市川の関係としてはどうだろうか。このあたりを掴みきれていない感じがする。

つまり山田だって、自分の体のこと、異性との距離感など、日々悩みながら生活している等身大の中学生なのだ。


カーストラブコメはその設定自体がある種のファンタジー的要素を持っているが、こういう生理現象でもってリアリティを持たせており、リアリティがあるからこそ悶絶できるラブコメに仕上がっている。いまイチオシのラブコメである。